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今日本では年間自殺者が3万人を超えていることはよく知られていることだと思います。そして亡くなった方がそれだけいるということは、未遂者がもっとたくさん――推計10〜20倍――いるということにもなるのです。

そしてそのほかに亡くなった人と強い絆のあった人たちがPTSDなどになり、専門的な治療が必要になることもあります。つまり、もはや3万人の問題だけにとどまらない、周囲の多くの人々を含む深刻な問題だということです。

この本は精神科医として多くの自殺未遂者に出会ってきた著者が、実際のケースなどを取り上げながらその実態を訴えている本です。著者は今自殺を考えている人にぜひ読んでもらいたい、そして「自殺以外にもう方法はない」と信じきっている人に、そんなふうに追い込まれているのは自分だけじゃないと気づいてもらいたいと書いています。

「誰にでも自分の命を決定する自由があるのではないか」という議論も聞かれますが、著者によると自殺者の9割にこころの病がみられるそうです。つまり自殺することだけしか道はないという、心理的視野狭窄の状態にあるわけで、治療などによってその状態は改善することができるのです。

この本には絶望的な状況から立ち直った例もいくつか挙げてあります。長年自殺は「家族の恥」とされ、遺された家族も深く傷ついてきました。

しかし1990年後半頃からこの傾向に変化がみられるようになり、あしなが育英会の自死遺児の皆さんが自らの体験を語り始める、というように今までとは受け止め方も変わってきました。こころの病にかかると、自殺を考えたことがある、という話はけっして珍しい話ではありません。

まさに今そのような思いで苦しんでいる人がたくさんいると思うのです。でもそれはいろいろなことが積み重なって、あなたをそのような状況に追い込んでいるだけです。まだ道はあるのです。

著者は今まで自分の目の前に現れた自殺の危険の高い人は、最後の最後まで、「自殺してしまいたい」という気持ちと「苦しみを止めてほしい。もう一度生きていきたい」という気持ちの間を激しく揺れ動いていたと言っています。

自殺するという意志が100%固まった人などほとんどいない、と。それでももうだめだ、と考えているあなたに。あなたの圧倒的な絶望感に寄り添ってくれる人はこの世界に必ずいます。「私たちはけっして諦めない」と考えている精神科医はあちこちにいるはずです。

もう一度周りを見回してみる、その小さなきっかけになればと思い、この本のことを書きました。

注:「自殺」という言葉の響きが自ら人生を絶とうとしている人やその周囲の人に対して無神経だという意見もあり、あしなが育英会では「自死」という言葉を用いている。著者も同様に感じることがあるそうだが、この本の場合ほかに適切な言葉が思いつかなかったとのこと。この言葉を使うことをお許しいただきたい、との配慮の箇所がある。
(2005年2月2日)

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