ホーム > 心の居場所(2006年10月号)

19歳になりました
〜自分の思いを語れるようになること・
相手の気持ちを聴けるようになること〜
クッキングハウスのリカバリーへの道

 皆さまお元気ですか。梨やぶどう、かぼちゃや里芋などの秋の実りを全国各地のみなさまから届けていただきました。いつもあたたかいご支援をありがとうございます。

 2006年10月1日でクッキングハウスも満19歳になりました。やかんやまな板、コーヒーカップを持って12畳のワンルームの鍵を開けた日、あるだけの調理器具でできるものをとサンドイッチを作った日のことを昨日の場面のように思い出します。19年間、最も大切に思い育ててきたことは、気持ちのいいコミュニケーションをたくさん体験することでした。長い間、病院にいたり不安をかかえたり、孤立したままでいた人達と出会い、自分の気持ちを言葉にして表現してみること、自分の気持ちにぴったり合う言葉を見つけていくことが、人間らしく生きるリカバリーへの道だと思ったのです。それは私自身、閉鎖的な家庭に育ち、自分の思いを表現できない苦しさを体験してきたから、言葉を取り戻すことが心を解放することなのだと身にしみて感じていたからでもあります。

 おいしい食事を一緒に食べることも、気持ちのいいコミュニケーションをたくさん体験するための、最もあたたかい媒介になると思ったからです。楽しい体験が日常になり、毎日積み重っていき、力がついてくるように願いました。

 「リラックスマイク」も、自分の気持ちをうまく伝えることを助けてくれるお守りになりました。バザーで寄贈して頂いた羊のぬいぐるみに心ひかれ、話す時にこのぬいぐるみを持ったら、緊張がほぐれるに違いないと直感し、「これはリラックスマイクです。これを持つと、自分の気持ちがすんなり言える不思議なマイクです。」と、ティータイムの時に、にこやかに言いメンバーに手渡すと「そうなんですか」と素直に受け止めてくれて、安心したように両手でぎゅっと羊を握りしめて話し出したのでした。

 まだ、言葉の出にくい人がいる時は、単語だけでいい山手線ゲームをしました。「好きな食べ物は」「好きなタレントは」「好きなテレビ番組は」と課題にそって一言だけ。リラックスマイクが回っていきます。「自分がつらかった時、家族がしてくれた嬉しかったことは、どんなことですか」というテーマもリラックスマイクの応援で語ることができました。握りしめられた羊のぬいぐるみは、すっかり手垢でピカピカ光るようになり、何度洗ったことでしょう。

 そのうち、クマのぬいぐるみを作り、「リラックスマイクになります。」と売れるようになりました。国井順子さんが自らを慰めるために作った人形も、みんなに可愛がられるようになりました。いつの間にか3つのクッキングハウスにたくさんのぬいぐるみが増えて、その日のティータイムの雰囲気に合わせて選べるようになりました。

 「不思議なレストラン」にリラックスマイクのことを紹介したので、大学のゼミの学生さんが見学に来て「リラックスマイクのことを教えて下さい」と聞いてくれるようにもなりました。

 こうして19年たった今、クッキングハウスのみんなは、自分の思いを堂々と語り、仲間の話にもきちんと耳を傾けることが身についてきました。出かけていくことが楽しみになる魅力ある場にと育っていきました。レストランのお客さまが、ティータイムで順番にリラックスマイクを回しながら語っている和やかな様子をみて「素晴らしいですね。毎日この活動をやっているから、コミュニケーションの力がつくんですね。これこそが回復ですね。」と感心してくれます。

 一人一人が尊重され、差別のない社会が平和であり、私達は平和のモデルを19年かけて作り出してきたのです。平和の基本には、自分の思いを言葉でわかりやすく表現できること、相手の言い分にも十分耳を傾けられる民主主義があります。小さい場から、平和に生きるためにどうしても必要な「語り合い」がうまくできる方法を工夫し続けてきたのです。私達は、クッキングハウスをやり続けてきたことに誇りを持ちましょう。


PS.羊のぬいぐるみは、手垢で光り輝いて今もレストランで健在です。
  アイヌ語で「言葉」は「イタク」…「そこに存在する魂」という意味です。



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