クッキングハウスからこんにちは No.162

目次(青字の記事を抜粋してあります)2015年6月5日発行

 [もくじ]
巻頭言:ペンペン草のように語れ 語れ…1、総会特集…2~4、スウさんのピースウォーク…4、いい本が出ました…5、スペシャル旅…6~8、
初夏のメンタルヘルス市民講座…8、吉本有里コンサート、笠木透追悼コンサート、賛助会御礼…9、文化学習企画…10、
仲間紹介、命の讃歌コンサート…11、動くクッキングハウス、各地からありがとう…12

 総 会 特 集


●弱さの情報公開から、人とつながって生きていける

 「べてるの家から吹く風」の記念講演の申し込みが続々。とても入りきらないと締め切ったのだが、当日になっても“なんとかなりませんか”と問い合わせ。90名の参加者がぎゅうぎゅうに詰めて、べてるの家の向谷地生良さんの当事者研究の世界に集中した。
 1984年に北海道浦河の町にスタートした「べてるの家」は、前田ケイ先生の紹介でクッキングハウスとはずっとSSTつながりでやってきた。もっと日常的なつながりでは、昆布だ。レストランで使う「だし」は、べてるの家の昆布で、毎日大鍋で40~50人分のお味噌汁や煮物を作っている。


●向谷地生良さんのお話

 向谷地さんが大学の学生に「私は忘れ物の天才なので、気をつけてね」と言うと、そこから学生とのコミュニケーションが活発になる。人間らしく生きていくためには、人とつながっていくこと。苦労の主人公である自分自身の弱さの情報公開をすることから、当事者研究は始まる。当事者研究の強い味方がSST。仲間と助け合い、知恵を出し合って一緒に考え、練習して変わっていく。
 「べてるの家のメンバーは、苦労の専門家です」とスライドで活動紹介。病院のソーシャルワーカーだった向谷地さん。最も弱い当事者たちに“ひと儲けしよう”と声をかけたら、目が輝き立ち上がってくれた。昆布売りから始まって、10年後には年商1億円に。2万人から12,000人に減少した過疎の町に、年間3,000人もの見学者たちが、べてるの家を訪ねてきて町を活性化している。120人の利用者に、80人のスタッフ(内、半数が当事者スタッフ)。有限会社もつくり、2002年には社会福祉法人になった。みんな楽しそうな様子。
べてるの家の人たちの病気は、結構重い。でも、「病気は悪いけど、機嫌がいい」「病気は軽いけど、機嫌が悪い」みなさん、どっちを選びますか?と質問されて、メンバーの内藤さんは“難しいですね”と答えている。病気の魅力にとり憑かれて、治りたくない、病気は悪いけれど暮らしている。評判は悪いけれど、地域で暮らしている。そういう時にSSTはとても役に立つのです。
 いつの間にか、当事者研究に入っている。内藤さんに向かって「今、天国にいるという「幻聴さん」を呼び出すことは可能ですか?」と向谷地さんがたずねる。幻聴さんは、大事なことを教えてくれる気配を感じさせるものだという。
 べてるの家の当事者研究でわかった、具合の悪くなるときの注意サインは、なるほど、とうなづける。

      な・・・なやみ
      つ・・・つかれ
      ひ・・・ひま
      さ・・・さびしい
      お・・・おなかがすく、おかねがない、おクスリのトラブル

「私はとても苦しかったのに、1人で頑張ってクローズで仕事をしていて、幻聴さんが出て来たのです」と内藤さんも納得。「でも今は、クッキングハウスのSSTでいっぱい課題を出して元気になり、幻聴さんも天国で見守ってくれているのです。みなさんありがとうございます」と内藤さんの笑顔にみんなもほっとして拍手。
 常連のお客様の白石さんの当事者研究も、実におもしろく、仮面ライダーから電人ライダーになって、「日本の精神科医療で苦しんでいる人を救うんだね。君は正義の味方、電人サポーター」と呼ばれ、白石さんの素晴らしい笑顔をみて感動。クッキングハウスのいいところは?と聞かれ、「うたをうたうところと、美味しいご飯です」と答えていた。昨日まで、とても調子が悪かった白石さんが、当事者研究で自分の問題に寄り添ってくれたことに満足して笑顔になった。べてる祭りで発表しませんか?と向谷地さんに勧められ嬉しそう。攻撃的だった言葉は消え、“ありがとうございました”と帰っていったのです。

 「私は一番患者さんに殴られたソーシャルワーカーだと思います。それでもニコニコしていると、患者さんのほうが気づいてくるのです。もう自分一人の力じゃ無理だと思った時から、始まっていったのです。おびただしい失敗をして、最後にはもう笑うしかないと絶望した時、その中から生まれていった態度や発想が、当事者研究でした。安心して絶望できる人生への考え方の転換です。もうやけくそイベントでやった40~50人規模の総会の余興、幻覚・妄想大会が500人規模のべてる祭りになり、不思議な循環をしていきました。日本発、当事者研究は世界の先端となりました。みんなワイワイ研究していると、新しいアイデアが生まれてくる。これはユニークな学問領域だと、学校現場や企業でも取り上げられるようになり、東大で学術研究されるようになりました。悩みをひとりで抱え込んでは宝の持ち腐れ。大事なのは、自分ひとりの力では無理だと思った時、弱さの情報公開をして人と豊かにつながって生きていくのです」

 向谷地さんの包み込む優しさと、いつの間にか人を信じられる方向への道を開いてくれるリーダー力に感服。さあ、私たちも当事者研究をやっていきましょう。(松浦幸子)





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