クッキングハウスからこんにちは No.153

目次(青字の記事を抜粋してあります)2013年12月2日発行


もくじ
巻頭言:26周年かるた…1、特集・旅スペシャル・水俣…2、復興支援…3、ムジカ,文化座,小田原バス旅行…4、サイコドラマ,市民大学報告…5、動くin調布,近況報告…7、気功,クリスマスコンサート…8、クリスマス会,新年会,メンタルヘルス市民講座…9、ほかの誰とも,仲間紹介,公開紹介会…10、文化学習企画…11、動く,各地からありがとう,料理例,お知らせ,賛助会お礼…12             

旅スペシャル 水 俣 ~minamata~  スタディーツアー
 クッキングハウスをオープンした時から、水俣を訪ねたいと、ずっと願ってきましたが、やっと2013年11月1日~4日、水俣を初めて訪ねる人達のスタディーツアーに参加できました。チッソという会社が、葦の原だった水俣の地に会社をつくり、アセトアルデヒトの生成過程での有機水銀を、処理せずに流出したのは1932年からです。メチル水銀に汚染された魚介類を人が食べ、食物連鎖と生体濃縮で、お母さんの胎盤を通して胎児性水俣病も生まれ、20万人以上の人達が深刻な健康被害を受けているのに、まだこの時代になっても、問題は解決されるどころか、同じ問題が福島原発でも起きているのです。

 「うつるから」、「魚が売れなくなるから」、「チッソがつぶれるから」と、患者とその家族達は地域の中で差別され、孤立して身を小さくして生きてきた大変な時代がありました。
人生の途中で心の病気をした人達が、長年月入院させられ、忘れられた存在として生きてこざるを得なかった時代と、水俣とが重なります。病院ではなく、地域で人間らしく当たり前に暮らしていきたいと、ご飯を一緒に食べる場・「クッキングハウス」の活動と、水俣とが、いつもつながっていたと思います。当事者が声をあげていくこと・当事者が隠さない生き方をしていくことにしか道は開けない、と思いました。SSTや日々のティータイムで自分の思いを自分の言葉で語ること、そして一人ひとりの話に耳を傾けることを大事にしながら、26年間、歩んできて、メンバー達は元気になって地域で暮らせるようになってきました。
石牟礼道子さんの「苦(く)海(がい)浄土(じょうど)」を読み、魂の深さを感じ、どうしたら人間らしく生きていけるのか、どうしたら人にやさしくなれるのか、水俣には、そのことに応えてくれるあたたかさがあると思って、慕い続けてきたのです。石牟礼さんの文学の世界の通りの、懐かしい故郷のような風景が、確かにありました。水俣病が多発したという茂堂・渇道の集落は、海の中に家があるかのような海辺で暮らし、毎日魚を獲り貝を獲っては晩のおかずや味噌汁にして、貧しいけれど、豊かな暮らしをしていたのです。すでに私達が取り返せない懐かしい心の故郷の海辺を歩き、漁船に乗り水俣湾の風に吹かれながら、恋路島のあたりを眺めました。波穏やかで豊かな不知海。対岸には天草の島が見えます。

 水俣病の歴史を生き抜き、祖父母や父母から生命のバトンをしっかり引き継いだ語り部達のお話を聴きました。川本てるおさんの息子の川本愛一郎さん、杉本栄子さんの息子の杉本肇さんは、じゃこ漁の漁師で私達を船に乗せてくれた姿が何とも海の男らしく、かっこよかったです。“家内ブラザーズ”というお笑い芸人としても、知られています。とてつもない悲しみや絶望の後は、笑顔や笑いを求めているのだとわかったのだそうです。吉永理巳子さんや、ユーモアたっぷりで語る胎児性水俣病の永本憲二さん。水俣市立水俣病資料館の語り部として、訪ねる人達の胸に、生きていくことの勇気とやさしさを届けてくれています。

当事者が語りだすことで、人の心の在り方・社会の在り方も変えていくのだと心に深く刻みました。また、語りだすまでの苦労の年月を思い出しました。水俣のことは忘れず、ずっと私のこれからの生き方として考えていきたいです。(松浦幸子)


一人ひとりが主役 うた付きサイコドラマで心の世界が広がる
~自分を縛りつけていた役割から自由になれる~



 増野肇先生のサイコドラマは、ここ一年大きく変化してきました。今までは、グループの中の、しんどいメンバーが主役になり、ドラマをつくって仲間があたたかく見守る中で楽になっていきましたが、最近は参加した全員が主役になるのです。
 そしてそこに主役の好きな歌が入るドラマに変わってきました。うたを捜すのは、先生のタブレット。真剣に画面を見ている先生の姿は、ゲームに熱中している少年のようです。
 ある日のテーマは、「自分にとって最高の死の場面」。自分の死の場面は、一度はイメージしてみたかったので抵抗なく自然に場面が浮かんできました。私は、佐藤初女さんの開いている青森の「森のイスキア」で、全国から訪ねてきた人達が、採れたての新米を食べながら語り合っている場面にしました。湧き出る温泉に身を清めた体を隣の青畳の上に横たえ、くっきりと青い空を眺めながら、それぞれの人達の、ここにやって来るまでのつらかった話を聴いています。だんだん心がほぐれたのか、笑い声も聞こえてくるのが何とも心地いいのです。「今日は死ぬのに最高のいい日です」と自分ににっこりと語りかけます。そして安心して眠りに入っていく、という場面を仲間の応援をもらってつくっていきました。最後の歌は、なぜか「星影のワルツ」が浮かんできて、みんなにも一緒に歌ってもらいました。死というものを恐がらないで受け入れていく心のゆとりが生まれました。安心できるグループに育ってきたから、こんなテーマも可能になったのでしょう。グループのみんなも、それぞれの最高の死の場面をイメージ。

また、ある日のテーマは「良い人間関係の思い出の場面」、または「希望している未来の人間関係の場面」。私は突然、亡くなった小学校時代の恩師との約束をサイコドラマで果たすことができました。新潟港のそばに住んでいた恩師を訪ねた時、「ここから北海道の小樽に行く船が出ているから、夏になったら乗ろう。日本海の夕陽がきれいだよ。夜のイカ釣り漁船の灯りが美しいから、見せてあげたい。」と語ってくれた思い出です。クッキングハウスのみんなとの旅で実現。甲板で夕陽を眺めていると、恩師は夕陽の空から現れて、「日本海の夕陽の美しさをよく見てね。クッキングハウスのみんなと、船に乗ってくれてとてもうれしいよ。幸子はよくやっているね、ずっと応援しているからね。」と語りかけてくれます。恩師役の後藤さんのやさしい励ましの言葉に、思わず涙してしまいました。サイコドラマは、日々の忙しさや人間関係の疲れで、ゆとり不足になる私の心を補い、満たしてくれるのです。   (松浦幸子)


メンタルヘルス市民大学  第5回報告 10月26日 開催
テーマ:〈当事者研2〉


~家族の再生ドラマに深い感動~
水餃子の美味しいランチを食べてから学ぶのだから、もうすっかりウォーミングアップされている。内藤浩子さんのソロの「ぼちぼちいこか」が、とても爽やかで、オープニングにふさわしい。当事者研究では、高橋享さんが家族で今まで語り合ってきたことを、サイコドラマを取り入れ、「家族の再生ドラマ」として脚本を書き、父の高橋正宏さん・母の高橋きよみさんと3人で発表してくれた。享さんは、通信152号の小谷村でのメンタルヘルス市民大学レポートを読み、疲れていた気持ちが奮い立ち、脚本を一気に書いたのだという。
享さんの引きこもりで家族もどうしてあげたらいいのか、一緒にトンネルの中に入って苦しみ、つらさを共有し合う。家族で病気に向き合って、いたわりあう姿に涙がこぼれた。脚本では予想もしなかった夫婦の自然にいたわりあう場面に、観ている私も何度もほろっとしてしまう。ああ、家族っていいもんだなあ。享さんの書いた脚本を、父も母も一生懸命に取り組んでいる姿が忘れられない。母が涙で読めなくなると、父が代わってあげている。紙吹雪が舞う。幸せが、空から降りてきたのだという。なかなかの演出だ。そして守護天使も登場する。「僕は両親を選んで生まれてきたのだ」という最後のセリフが実にいい。まさに当事者研究。自分を研究する専門家は自分なのです。そして仲間と共に学んでいくのです。  (松浦幸子)

~傷ついた心をいたわってあげたい~
小林祥之さんの当事者研究も、実に素晴らしかった。心が傷ついたことを表現できないまま心の中に固まってしまっていると、それが症状になって出るのだと、小さい頃の傷ついた体験から語ってくれた。

〈参加者からの感想〉
・栗山伸子さん 小林さんの当事者研究。自分と真剣に向き合わないと答えは出せない。フカンして眺めるって実はしんどいのに、まだまだ続きが聴いていたくて。濃密な時が過ごせて本当に良かったです。
・水野スウさん 小林さんの研究。自分が怒って腹を立てているのに他の人に置き換えられてしまう。なるほどー!その元々になってるものが怨みだったり恥ずかしいというネガティブな感情のかたまりだったんですね。
・小矢野由美さん “焼けている石が心に入っているような苦しさ”を抱えた小林さんが、大学ノートいっぱいに当事者研究をして発表してくださったこと、感謝します。「私が」怒っているのに、「他人が」怒っているような気持ちになることは、私にもあります。心を深くして、自分の気持ちを見つめていこうと思いました。また享さんの、「生き抜いてきたから今があるんだね」というメッセージ、深く受け取りました。体調の悪い中、シナリオを作って、ドラマを届けて下さってありがとうございました。小谷村で自らの足元でできることをコツコツと続けてこられた高橋さん一家は、尊敬します。表面的ではない、自分がよりよく生きていく学びを、これからも続けていきます。
・田中久美子さん 高橋さんご一家のドラマには、とても感動しました。つらい時を長く経験され、乗り越えられ、ご自分達の気持ちを出し切って、家族で演じられることができた、と、その瞬間に居合わせることができて、本当に嬉しく思いました。歳月の長さを蓄積された時間の重みを感じました。素晴らしかったです。小林さんの研究は、大変勉強になりました。当事者のナマの声を聞けたように思いました。粘土の固まりなど、具体的に私達にわかるように丁寧に話して下さり、ありがたかったです。なかなか皆さんのとらい体験や症状を理解することは難しいですが、一つの例として感じることができました。
・斎藤敏朗さん 祥之さんの当事者研究では分析し、目に見える形で症状を説明して下さったのが本当に良かったのです。妄想になってしまう置換の考え方。緊張になってしまう自分にとってのつらい体験を心の奥に閉じ込めることから始まるプロセス。また、心の奥にあるネガティブな固まりを心を深くして取り出すことの考え方。見えないものを見ることができた気がして少し安心できました。注意サインも大事な自己研究の一つです。これからも見つけていきたいと思います。
・高橋享さん 小林さんの当事者研究の「緊張」について、感情を押さえ込むから、それが固まり、緊張するということだと考えさせられました。僕自身、「緊張」に対しての対処法はいくつかありますが、原因について知れたような気がして、小林さんには感謝しています。思い起こせば幼少期より感情を抑えてきた自分自身がいたような…。これから、上手な感情の出し方、小林さんの言う“排出”をSSTで学べたらと思います。内藤さんの歌、斉藤さんの朗読、見ていて、ただただスゴイなぁと思います。僕も、無理をしないように、コツコツやっていこうと思えました。
・小林祥之さん メンバーの晴れの舞台、という気がします。こういう場があることはとても素晴らしいこと。松浦さんパワーですね!メンバーひとりひとりが独創性とパワーを発揮できて本当に楽しい会だと思います。とても充実した発表でした。一生の思い出になりそう!!



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