<動くクッキングハウス>
「つばさ」10周年記念講演in神奈川県海老名市
ボランティアの会のあたたかさにつつまれて
2012年1月14日、神奈川県海老名市の精神保健ボランティアの会「つばさ」の10周年記念の講演に、斉藤敏朗さん・地場真由美さんと3人で行きました。実行委員のみなさんはクッキングハウスに打ち合わせがてら見学に来て下さり、スペシャルSSTに参加して新鮮な感動を「つばさ通信」にも書いてくれました。
丁寧に準備したお祝い会は、会員それぞれの持味を発揮し、舞台の花を飾る人、うたを歌う人、パーティーのごちそうを作る人と、あたたかさに包まれていました。海老名市の市長さんが「生きてみようよ!」を買って下さったので、私が壇上でうれしかった気持を伝えると、本の前にたくさんの人が並んでくれて、「生きてみようよ!」は売り切れとなり、クッキングハウスに戻ってからサイン付きで発送という、うれしい悲鳴でした。
講演に続いてSSTのデモンストレーション。会場からも3名舞台にあがっていただき、気分しらべや相手をほめるウォーミングアップ、斉藤さんのあいさつをしたい課題練習など、コミュニケーションが楽しいということを伝えることができました。(松浦幸子)
「不思議なレストラン」が教えてくれること 中村良一(「つばさ」ボランティア)
「不思議なレストラン」は調布市に実在する“レストラン・クッキングハウス”の設立から、運営、継続、更なるお店の拡張までを、心の病の方々と共に大変なご苦労と時間を掛けながら実現された一連の流れを物語風に書かれた本の題名です。著者は松浦幸子さん。
“心病む人たちとこの街で暮らしたい”と“クッキングハウス物語”と副題が暗示しているのですが、心の病を持たれた大勢の方々が、長い間精神病院に入院させられていたり、アパートや家の一室に閉じこもり、話す相手も無しに一人で居る現実を、改善できないものかと、一人の個人として出来る可能性のすべてをぶつけて一歩一歩実現していく様子が物語のように述べられています。
戦後中国から引き上げてきた両親の苦労と、その後の新潟の山村での母と子の涙ぐましい著者の成長の記録は小説以上にリアルな表現で、雪の山村で育った少女の耐える、しかし真っ直ぐ育っていく姿が語られ、涙せずには読めない部分も有り、著者の人となりを垣間見る思いがしました。
少女時代から苦学されて法政大学を卒業され、YWCA専門学校社会福祉科での実習の中で、大勢の当事者や精神科医、家族の人々など、多くの方々との出会いがあったようです。そんな環境の中で、当事者“恵子さん”との出会いが有り、当事者にとって“街のなかに、小さくていいから、いつも開いていて、なんでも話せて気持が楽になって、いつでも出かけていけるような居場所がほしいね”との会話がきっかけで、数年後にクッキングハウスが誕生したと伝えています。本の中では、色々な事例が具体的に述べられています。
この本を通して、心の病を持つ方々との関係において“一人一人の思いへの気配り”“美味しい食事”“自由度の有る居場所の確保”“人間としての尊厳”“長い時間が必要”“根気が必要、へこたれない方法・手段を見つけておく”などなど、多くのことを改めて、認識し考える機会になりました。この本をお読みになることは、心の病を知ることと同義だと強く感じました。私のお奨めしたい本の一冊です。(「つばさ通信」第19号より)
初の親子コミュニケーション講座in川崎
~大人も子どもも一緒に学んで練習して~
主催はわたぼうしの会。川崎の幸市民会館の家庭教育学級での出会いから仲間が集まり、2000年にグループ「わたぼうし」の会発足。世代も様々な人達が、語り合いながらお互いを知り合うプロセスを経て、つながりを大切に、コミュニケーション講座や子育て支援活動をやってきた。私ももう何年も講座を重ねてきた。リーダーの倉方さんを始め、みなさんが積極的にクッキングハウスの学習企画に足繁く通ってきて学んでくれている。
今回は、子育てで孤立しそうになり、苦しんでいる親と、気持を伝えたいけど、どう表現していいかわからずもがいている子ども達と、一緒にできる親子コミュニケーション講座を開くことになった。学びを最も必要としているところに、着地したということだろう。
講座は1月21日~2月25日まで5回のシリーズ。第1回「自分の気持をうまく伝える練習~私メッセージ~」、第2回「相手の気持を聴く練習~共感的反応をおくる~」、第3回「親も子もお互いのいいところを認めてほめる練習」、第4回と5回は、「SST」。
私にとって親子そろっての講座は初めての試みで、子ども達に会えることもワクワクだ。子どもは大人以上に理解力がある。筋が通るようにわかりやすく話そう。コ・リーダーは斉藤敏朗さんと森尚子さん。円陣に座った子ども達は、斉藤さんと森さんが自らの心の状態の苦しかった時のことを話すと、ちゃんと聴いてくれた。大丈夫。子どもを信じていこうと思う。
今出会い、円陣に座っているグループが安心でき、自分を解放してもいいのだと感じてもらえるよう、いくつかのウォーミングアップ。「気分しらべ」は、まだうまく言葉のでない子には手をあげることでも十分表現できるよ、と教える。
ペアをつくり、ネーミングの相談。ペアごとの勝負でカルタ大会。「ばばばあちゃん」と「北海道小樽の切り絵カルタ」の2本立て。さっきは声のでなかった子も、真剣になり札をとる。勝ちとった札は夢の旅行の資金となり、ペアごとに旅の企画を話し合い、それぞれ報告してもらう。斉藤さんは、アヤandトシという名前を考え、やさしくフォローし、アヤさんはみんなの前で旅の企画を語ることができた。
最後のシェアリングでは、みんな自分の気持をうまく話せるようになっていた。自分の気持や考えを自分の言葉で語れるようになり、周りにわかってもらえた時、どんなに幸せか。何かのきっかけでふわっとほぐれた時、可能性を発揮できる。そのきっかけづくりを考えることは、最高の楽しみだ。(松浦幸子)
9回目の父親学習会 ~安心感のプレゼントをしましょう~
わが子の回復を応援したいと思っているお父さん。回復まで長い経過をたどる中で、一番大変なお母さんのことをねぎらってあげたいと思うお父さん。いったいどんな言葉かけをしたらいいのだろう。
父親同士だからこそ思いを共有し、一緒に考え学び合えることがある、と父親学習会を開催してから今回で9回目となりました。毎回欠かさず出席し、当事者への理解を深め、少しずついい方向に向かっているお父さんの報告も聞けます。初めて参加し、今抱えている問題を必死に語るお父さんもいます。
講師の増野肇先生が、一人一人の話に耳を傾け、適切なアドバイスをしてくれます。そのやりとりを聞いているだけでも、「みんな大変なんだな。よくやっているな」と共感し、元気がわいてきます。
心の病気(特に統合失調症)は、ストレスに対し敏感で、混乱すると視野が狭くなったり、自分の大事な人の反応に集中してしまい、不安が強くなるので、よく話を聴き、家族が安心感を贈ることが大事なのだという増野先生のお話に、「安心感を贈れるように、もっともっと勉強しなくては」とお父さん達は謙虚にうなずいていました。
安心感が持てるようになることを、特に丁寧にやっていかなくてはならない。でも、ここが一番むずかしいことなのです。つい、「あなたメッセージ」で“こうしたほうがいい”と言ってしまったり、父親が知りたいことだけを聞こうとしてしまいます。「私メッセージ」で気持だけを伝え、一緒に楽しめることをみつけていくこと。
増野先生は、楽しいことをみつけていくことが心を開く窓になる、と何度も話されました。引きこもりについても、「外に出ると傷つくから引きこもっているのです。窓は何かをみつけること。窓から声をかけてくれる人がほしい。当事者にとっては、気楽な斜めの関係の人がいるといい。クッキングハウスのような草むらの役割の居場所があるといい。家族ではない第三者と話していると、変化していく」。
「娘とのコミュニケーションがうまくいかないことが悩みだったが、娘に変わってほしいと思うのではなく、自分が変わることだと気がつきました。世間と比較してあせったりしないように、私が安心感を贈れるようになりたい」。
お父さん達も一生懸命、自分を変えなくては、と思っています。そんなお父さん達を応援したいと、みんなで心をこめておいしい昼食を準備し、交流していただきました。(松浦幸子)