松崎運之助さんを中心とする「路地裏」の仲間達で大阪路地裏散歩。迎えてくれた“がんばれ学童クラブ”の伊藤真美子さんのぽんぽんと話す本音の言葉が気持良く心に響いてきて、すっかり大阪の人情の魅力に引きこまれてしまいました。
明治・大正・昭和の長屋が残る野田の路地裏散歩でお地蔵さまのおまいりをしている時、素晴しい方にお会いしました。玄関に赤い電球がついている助産師さんの家の前で、82才の前田さんが花に水をやっていたのです。柔和なお顔とほっこりとあたたかい手。拝みたくなるような優しい笑顔です。4代も続いた助産師さんの家で、前田さんは日本助産師学会の会長もしておられたとのこと。ずっとにぎってもらっていた手のぬくもりがまだ残っています。
4代で3万人もの赤ん坊をとりあげられてきたとのこと、いい仕事がずっと伝えられ継承されてきたこと。その仕事を守り育ててきた、この野田の路地の街。ななとこ地蔵さんのお顔も、街の人々に拝まれていいお顔になってきたのでしょう。
この街に「ななとこ庵」という、古い民家を改装してお年寄りも住民たちも交流しあえる居場所がありました。松崎運之助さんが街を歩いていて見つけ、あまりに居心地が良くて、ずっと座っていたという家です。こんな場があったら私も年とって毎日出かけて、おしゃべりしていたいです。
すべての街の人たちが路地で助け合って、しかも自立して暮らすことから生まれてきたものでしょう。
ピネ亭のご主人山城さんの「オモニのお話」は、涙あふれでるオモニの人生であり、山城さんの心の成長の歴史でもありました。日本にやって来て、文字も読めず、言葉もわからないオモニがどんなに生きづらかったか、子ども時代はひどいなまりで話すオモニを恥ずかしいと思っていた山城さんの気持ちも共感できるのです。
年をとってからオモニは父の介護をしながら夜間中学に入り、文字を習った時、どんなに感動し喜んでいたか。筆箱に自分の名前を書けた時の嬉しそうな顔。学ぶことの意味を母の姿からわかった息子。オモニの本音で生きてきた人生をようやく理解できた息子の山城さん。山城さんの息子さんは母国の名前で教師となっています。
じゃんじゃん横町で串かつを食べたあと、高校教師の大谷育弘さんの案内で釜ヶ崎へ。山田洋次監督の映画『おとうと』で、人生の最後をあたたかく看取ってくれる「希望の家」が釜ヶ崎にあったという設定で、姉の吉永小百合が訪ねてくるシーンを見ていたので、何だかなつかしい。
どしゃ降りの雨のあとの冷えた街。シャッターを下ろした職安の前でダンボールで寝ている人たちも年をとっていて寒そうだ。1年に700人もの方たちが冬の寒い時に特に多く亡くなるという。1日だけ利用できるシェルターも、夕方5時には外に出してしまうという。日雇い仕事がなくなり、ビジネスホテルに泊まるお金もない。空き部屋が生活保護のアパートになっている。それも限られた人だけという。
もっと活気のある街かと思ったが、とても淋しい街だったことにショックを覚えた。テント村があったという小学校の隣の場には、5メートルもあるフェンスが高く張りめぐらされ、それがあまりにも冷たくぞっとする。誰も寒い夜に外に寝たいとは思わないはず。日本の経済を支えてきた人たちに、せめてあたたかい部屋とあったかい食事を、と願います。
大阪の路地裏散歩は、一生懸命、人々の絆を大切に生きている方々と出会う旅でした。人とのつながりを大切に、私の足元の周りの人たちを理解し、手をつないで生きていきたいと思いました。大阪の人たちのパワーをいっぱいもらって、私も本音の言葉で語って生きたいです。(松浦幸子)
〈メンタルヘルス市民大学〉
〜当事者研究は自分自身の研究だ〜
1回〜4回までは、相手のいいところを認め、よく話を聴く練習をし、相手とのよいコミュニケーションをとることが、心地いい人間関係になっていくことを学んできました。
さあいよいよ今度は、自分自身を見つめる研究です。今よりもっといいコミュニケーションをとりたいと願っている人たちはすべて当事者と言えるでしょう。病気や障害を持った人を「当事者」と限定して考えるのではなく、今「生きづらさ」を抱えながら、精一杯生きている自分自身を「当事者」と考えてみましょう。
「自分の持っている可能性をのびのびと発揮し、自分のペースで自分が満足できる人生を歩むために、自分自身の研究をしてみよう」を合言葉に、当事者研究その@が10月16日に行われました。
*参加者の感想より*
●メンバーの皆さんの研究発表は素直で率直な心の声で、すばらしいものでした。心の声を聞くと、自分の中にかくれていた何かが呼び起こされるようで、また、何かが少しずつはがれていくように気づかされます。気づくと、また新しい自分が顔を出すように感じます。勇気によって救われる事が多いのに感動しました。
●心の深い部分でとてもとても感動しました。
つらい体験をしてきたからこそ、そこを生き抜き自分を再構築してこれた命の素晴しさに感動です。当事者研究の中で人々の絆が深まり、眼差しの優しさ深さが深まり、医療や福祉・教育の中で大切にしていかなければならないものを再確認させられました。
一人一人の当事者研究を一生懸命聴き、共感した思いを順番に語り、参加者みんなで共有していく作業は密度濃くあたたかさに包まれている時間です。自分自身を研究して希望を見つけていこう!とエンパワーメントされました。(松浦幸子)