スリランカは、赤道から850km北、南インド洋に浮かぶ熱帯の島。北海道くらいの広さに2千万人が暮らしている。1948年に、イギリスの植民地から独立。その時代にセイロンと呼ばれていた。2009年、長い内戦が終結し、ようやく平和が戻ってきた。
「スリランカの悪魔払い」(上田紀行著)という本を通して、私はずっとスリランカという国に親しみを感じてきた。病気になった村人がいると、村中の人々が集まって、一晩中踊り、歌い、祈り続けて病人の「孤独」を取り除くことで、病の悪魔を追い払ってしまうのだという。ちょうどクッキングハウスを始めて、居場所の意味をいつも考えながら日々実践していた時だったので、「ああ、クッキングハウスと同じだ!」と気づいてとても嬉しかった。「心の病気をしても、あなたをひとりぼっちにはさせないよ」を合言葉にしていたクッキングハウスの活動と重なるのだ。村人たちみんなが、病の人のことを思って集まってくる。にぎやかに歌い踊り、祈り、“孤立しそうになる悪魔”をみんなで追っ払う。国は違っても、人間として同じことを思っているのだとわかり、とても元気をもらえたのだった。
<仏像のスケッチ>
スリランカの人々は、仏教を深く信仰し、「アーユボーワン」(「末永く」という意味)と手を合わせて挨拶すると、誰でも穏やかな微笑みで手を合わせてくれる。仏様の前では、裸足で帽子も脱ぎ、長い間じっと祈っている。聖地巡礼を、最高の幸せと感じている。
サリーの晴れ着を着て祈っている人々の間に座らせてもらい、仏像のスケッチをした。仏像は、整った姿で、大らかで、何ともやさしい顔。母の心に抱かれているような、満たされた思いになる。平和な気持ちになりスケッチしていると、興味津々で子どもや大人たちがのぞきこんでくる。目を合わせると、にこっと笑ってくれる。子どもたちの目が生き生きしていて実にかわいい。「私も描いたわよ」と紙切れに仏像を描いて見せに来てくれる人もいる。絵を描くなんて憧れのことなのだろう。ホテルのボーイさんに、私の描いているスケッチペンを娘にあげたいと熱心に頼まれ、プレゼントしたりした。
<戦争のないことが平和の条件>
内戦が終わったとはいえ、首都コロンボの町では至るところで兵隊が見張りに立っていた。どの兵士も若く、あどけない顔の青年たち。手を振れば、笑顔で手を振って応えてくれる。18歳から兵役義務があるという。夜中もホテルの窓から見下ろすと、兵士たちが夜警に歩き回っていた。兵士たちの青春時代は、すべて兵隊生活。これが日常の風景だとしたら、悲しいことだ。
緑がしたたる程に美しい島。果物も一年中豊かにとれ、水田も二毛作。やしの木から見える夕陽も、実に美しい。スリランカの意味は、「輝きの島」。小さな島の美しさを守り、平和な国になってほしい。旅をしていると、本当に平和のありがたさを感じる。戦争の無いことが平和の条件だと痛切に思う。
スリランカの独立した1948年は、私の生まれた年でもある。コロンボにある独立記念堂に立った時、この国の平和を祈り、成長を応援したいと思った。(松浦幸子)
<レポート> NHK「名医にQ 統合失調症」で紹介されました
1月16日に放送された教育テレビ「そこが知りたい名医にQ 統合失調症」の番組に協力しました。当事者が病気になったことで、どんな生活のしづらさを抱えているか知ってほしい。クッキングハウスの居場所を生活の拠点にして、仲間と助け合ったり、日々おこる困った問題をスタッフに相談したりしながら一生懸命生きていることも伝えたい。何よりもつらく困難な状況を乗り越えて生きていること、いつも笑いにあふれ、文化を創り出していることを伝えたい。そうすれば、今とてもつらくて病気を受け止めることができないでいる当事者や家族に、「大丈夫ですよ」と希望を届けることができる。そんな思いで、約2ヶ月間丁寧に取材に応じてきました。
メンバーの池田和子さんは、隠さず堂々と当事者としての思いを語り、アパートでの生活もオープンにしました。本当に立派で、私たちはますます和子さんのことを誇りに思うようになりました。
番組は、医者の講義が中心でしたが、その中にキラキラとクッキングハウスの活動が輝き、和子さんの笑顔がいっぱい元気をくれました。
番組を見てくださった皆さま、ありがとうございます。私たちも、将来を考える会でみんなと一緒にビデオを見て、感想を話し合いました。(松浦幸子)
<感想より>
・ サチコさんと和子さんという個人の生活の紹介だったが、クッキングハウスの居場所という面はうまくとらえていた。
・ クッキングハウスの母体があまり映っていなかったが、統合失調症を知るというテーマだったので、個人にスポットを当てたことがかえってわかりやすかった。
・ テレビでは、病院と地域がすぐにつながっているように説明されていたが、実際は、病院から退院し、地域の作業所に来るまでとても長い距離があった。
また、番組ディレクターの方から次のようなお便りをいただきました。
「今回の番組に対しては、600通以上のfax・メールと、200件以上の電話が視聴者の方々から寄せられました。その中には、“和子さんに励まされた、共感する”といった声や“あんなSSTを受けてみたい”、そして、“過去に松浦さんやクッキングハウスの皆さんにお世話になったことがあるので、番組で取り上げられて嬉しい”といった声もたくさんありました。
再放送の希望も非常に多く、早速4月17日(土)に2回分の放送を1回分に再編集してアンコール放送することが決まりました」
限られた番組の中ではどうしても伝えきれないこともたくさんあって、もっと詳しく放送してほしいという感想も多くいただきました。これからもさらに、クッキングハウスの一貫した理念である「地域で一緒に生きていくことの大切さ」を伝え続けていかなくてはと思いました。